国政の自公連立解消は国内政治におけるブラック・スワン

海外起こりうるブラック・スワンとしてフランス大統領にマリーヌ・ルペン氏が当選することが挙げられると別掲しましたが、今回は日本国内政治に焦点をあてます。

国内政治におけるブラック・スワンは紛れもなく「自公連立解消」です。

「自公連立解消なんてあるわけないだろう」と考えている人が大多数でしょう。だからこそブラック・スワンなわけです。

「自公連立解消はない」と大方の国民や官公庁職員や衆参議員が思い込んでくれていた方が利益のチャンスがある

「なんだかんだ言って自公連立解消はないだろう」と、大方の一般国民や官公庁職員、与野党の国会議員に思ってくれていたほうが私としてはありがたいです。

なぜかというと大勢の人が「自公連立解消になる」と予測していたらブラック・スワンにならないからです。

大方の人が予想していることが実現しても、それは大した利益にはなりません。みんなわかっていることが実現するなんてそれは日常的に頻繁に起こっていることだからです。

それよりもトランプ勝利やEU離脱のように、大方の人が予測していなかったことが実現した方が大きな利益を生みます。

リーマンショックは紛れもなくブラック・スワンの筆頭格として例示されますが、リーマンショックで損をした人が大多数な中で、金銭的な利益に限らず莫大な”利益”を得ることができた人もいるわけです。

「なんだかんだ言って自公連立解消はないだろう」はトランプ勝利とEU離脱から何も学んでいない

私は先程、「大方の人が自公連立解消はないと考えてくれているほうがありがたい」と書きましたが、実際にそう信じているのはトランプ勝利とEU離脱から何も学んでいない”愚者”だと言えます。

EU離脱派もそこそこいるらしいが、EU離脱賛成派が過半数を採ることはない。トランプ支持も少しはいるらしいが当選することはない。このように信じた人達が「負け犬」となったわけです。

これらは重要なインディケーションです。これらが示唆することから何も学ばなければ、過去の経験から何も得ていないということになり、機械学習を実装したコンピュータプログラムよりも「馬鹿」だということになります。

可能性はあるが蓋然性が低いのがブラック・スワンの特徴リーマンショックもトランプ勝利もEU離脱も1年以上前から兆候が表れていた

ブラック・スワンの大きな特徴として、可能性はあるが蓋然性は低い、というものが挙げられます。

例えばリーマンショックは急に発現したものではありません。2007年にはすでに表面化していました。金融機関の投融資では正規分布を使って、「99%の確率で最大損失は~円に収まる」といった古典的なVaRがよく使われます。この2007年の夏頃には、ヘッジファンドの含み損がこの99%の信頼区間から大きくはみ出す事態が発生していました。まさに標準偏差でいうなら2シグマどころか、3シグマを軽く超えるレベルです。これは1%どころか0.1%を遥かに下回る非常に低い確率でしか起こり得ないことが起きていたことになります。そしてその1年後にリーマンショックは顕在化しました。

またトランプ勝利も2015年に立候補を表明した時点で「大統領になる可能性はあった」わけです。それでも「大統領になる蓋然性は限りなく低い」と考えられていました。トランプ大統領が誕生する兆候は2015年からすでにつかめる状態だったにもかかわらず、「蓋然性は低い」ということでブラック・スワンになってしまったわけです。

そしてEU離脱についても、キャメロン元首相は「私が首相を続投すれば、必ずEU離脱の国民投票を行う」と英国民に確約したことで保守党(トーリー党)は第一党となったわけです。このときからEU離脱は「可能性がある」状態でした。ですがキャメロン元首相は「EU離脱が多数派になる蓋然性はかなり低い」と見ていたようです。これがブラック・スワンでした。

自公連立解消においては、都議会における自公連立解消、自民党と日本維新の会の接近という兆候が存在

このブラック・スワンの特徴を自公連立解消に当てはめてみます。

まず自公連立解消の兆候は既に表れています。2014年の集団的自衛権を行使するための閣議決定、ここでは自民党は「連立解消も辞さない」としており公明党は退路を絶たれていました。結局は自民党に押し切られ公明党はいつものごとく「やむを得ない」で集団的自衛権を認めたわけです。

公明党の山口那津男代表は「自民党との間に隙間風が吹いていない。吹かせない」と語っていましたが、実際は隙間風は2017年の今でも吹いています。むしろ拡大していると言えるでしょう。

さらに2016年にはカジノ法案で公明党は党議拘束をかけられず、自民党と意思を統一することに失敗しました。これは自民党が、カジノ法を希求している日本維新の会のために処遇することを優先したためです。

そして2017年になっても新年早々菅義偉官房長官は日本維新の会の松井代表を首相官邸に招いて会談しています。2016年12月24日の安倍首相・菅官房長官と橋下法律顧問・松井代表との会談から一ヶ月も経っていない中での会談でした。

また都議会においては既に自公連立解消が確定して実現しています。

このように「国政の自公連立解消の可能性がある」という兆候があることについては既に条件を満たしています。そして「国政で自公連立解消なんてありえない」と考えている人が大半なので、「国政の自公連立解消の蓋然性は低い」という条件も満たしています。

つまり国政の自公連立解消はブラック・スワン予備軍としてかなり現実味を増しているわけです。

蓋を開けてみたら悪いどころかむしろ良かったトランプ勝利、EU離脱、TPP離脱

ブラック・スワンの特徴はもう一つあります。悪いと言われながら蓋を開けてみたら意外と良い結果を残すという側面があります。

リーマンショックは大きな金融ショックをもたらしましたが、それによって「テールリスクを過小評価しすぎないようにすること」、「金融機関は潰れないという神話ではなく、潰れるかもしれないというカウンターパーティリスクを考慮すること」という教訓を得ることができました。これによって金融機関の実務は大きく改善されました。

またトランプ勝利で、公共事業拡大のため米国債発効を乱発し米国債価格が下がることから、長期金利が上昇しています。これは米ドル高に繋がり日本は恩恵を受けTOPIXも上昇しました。

さらにEU離脱についても、英国に入ってくる移民を防ぎつつ英国と米国がFTAを結ぶという、TTIPよりも良い選択肢が生まれています。

TPP離脱についても、対シナ包囲網が崩れることと、外圧による農協グループ潰しが形骸化するのではないかという懸念がありましたが、トランプ大統領は日米FTA推進を表明し安倍首相もその選択肢に乗り始めました。

結果的に、米国を中心とする各国とのFTAにより対シナ包囲網を築くことになり、TPPよりも強力な農協潰し効果がある日米FTAという好ましい協定が議題に上っているわけです。

TPPがグラフ理論でいう、各国を接点とした「グラフ」のようなものだとすれば、日米FTAというのは米国を中心とした「ツリー」だと言えます。グラフとツリーの違いがわからなければ大学で教科書に使われるような理系の専門書を大型書店で探して読んでみてください。

つまりツリーとして米国に権限が集約されているか、グラフのように各国に分権化されているかだけの違いであり、米国が築く対シナ包囲網としての側面は同じです。むしろ対シナ包囲網としてはTPPよりも米国が各国とFTAを結んだほうが効果が高いと言えます。

なぜなら”グラフ型”のTPPのように分権化されていると、シナ寄りのシンガポールやオーストラリアの意向がTPPに反映されてしまいますが、対シナ強硬派である米国を中心とした集権的な”ツリー型”のFTAだと米国の意向が完全に反映されるからです。

一時は農協グループが安堵していた”米国のTPP離脱”でしたが、実際はそれ以上の悪夢である日米FTAが待ち構えていただけであり単なるぬか喜びで終わったということです。

「自公連立解消」が確定すると当初は「自民党に大打撃」と報道されるが、
しばらくすると「自民党に追い風」と報道されるのがブラック・スワンの特徴

以上の事実から、「国政の自公連立解消」が確定した当初は左翼メディアが喜んで大騒ぎし「自民党に大打撃」と報道するでしょう。

これはトランプ当選が確定した2016年11月9日に左翼メディアが「日本は終わった」と願望報道をして騒いでいたのと同じです。

ですが翌日の11月10日は株価は大幅上昇しその後も上昇基調です。

結局のところ、時間が経つと「自公連立解消でうまみを享受したのは自民と維新だった」と評価が変わります。

このようにブラック・スワンが顕在化したら、当初の動向に右往左往しないこと、これが重要です。

トランプ勝利が確定しそうな2016年11月9日に、円高を嫌ってドルを円に換金した「逆神」が大量発生したようです。つまり大損した養分達です。

ドルを円に替えずに、そのまま翌日まで放置しておけば翌朝にはトランプ当選前よりも円安になったにも関わらずです。

今後、国政で自公連立解消が実現しそのことが一斉に報道されるときも、「自民党政権の終わり」という左翼メディアの願望がひたすら報道されて株価は急落するでしょう。ですがそのときに焦ってしまうと、トランプ当選で大損した人達と同じ轍を踏むことになります。

「自民と維新が連立政権を組み、むしろ自公連立のときよりも株高になる」と冷静に客観的に見ることが重要です。