クリントン大統領よりトランプ大統領を望むJA全農と農林中央金庫

農協、トランプ、TPPというキーワードで検索されて来る方が非常に多いです。

そのドメインを見るとJAのドメインからのアクセスだったりします。

このようにトランプ大統領誕生を切実に望んでいる人達がいました。特にJA全農と農林中央金庫です。

JA全中はすでに改革が決定し、2018年頃に監査権などの特別な法的権限を持たない一般社団法人になることが確定しています。だからJA全中は「もうどうにでもなれ」状態であり、農協改革に積極的な自民党の小泉進次郎農林部会長に協力的です。

JA全中の一般社団法人化は農協グループに激震をもたらしました。なぜならJA全中は農協グループのピラミッドの頂点に位置する極めて高いポジションを占めていた殿様のような存在だったからです。まさかJA全中が自分たちよりも弱い組織になってしまうとは思ってもみなかったでしょう。

トランプの目的はTPPより日本に不利な協定を発効させて米国の農品目を「買わせること」

トランプ氏がTPPに反対しているのは日本の農協のためをおもっているのではありません。米国の自動車産業に不利だからです。トランプ氏はフェアなので、日本が牛肉に38%の関税をかけるなら日本車に38%の関税をかけてやると言います。

トランプ氏が狙っているのは米国の農品目を買わせることなので、日本の重要5品目の関税を維持したTPPが気に食わないわけです。なのに日本車と日本からの自動車部品の関税は長期的に撤廃することになっているため、TPPは不平等だとトランプ氏は言っています。

これは正論です。コメに800%近い関税をかけておきながら、米国には関税なしで日本車を売るなんて虫が良すぎるとトランプ氏じゃなくても思うでしょう。

特にトランプ氏の閣僚人事において、責任者トップにペンス副大統領候補が就任しました。ペンス氏は共和党きっての自由貿易推進派であり、TPPを含めて自由貿易をゴリ押ししてきた人です。

トランプ氏の意向を踏まえて、TPPで守られた日本の重要5品目の関税を撤廃した米国にとって有利な新たな協定を作る方向に行くでしょう。また「トランプ氏は選挙向けに強いことを言っているが、彼は現実主義者であり合理主義者である」であると、安倍首相と会談したトランプ氏側近が発言しており、政策をスムーズに実行するため、議会共和党のパイプ役として自由貿易推進派のペンス副大統領が実務を取り仕切るようです。自由貿易協定は議会共和党の批准なしに発効しないからです。

「TPPに入らないと米軍は日本を守らない」がより強硬な「重要5品目の関税撤廃しないと米軍は日本を守らない」になる

なぜ日本は無理してでもTPP交渉に参加したのか。それはTPPに入らないと在日米軍は日本を守らないと強硬に出てきたからです。

TPPに入るのならチャイナと軍事衝突したときに米軍が助けてあげるが、入らないのなら一切関与しない、日本が自力でチャイナに対処するようにと言われたわけです。

実際に2014年にオバマ大統領が来日した際、安倍首相とオバマ大統領との首脳会談の前に、甘利大臣は夜通しでフロマン氏と交渉していました。この首脳会談では「尖閣有事が米国による日本防衛義務の対象範囲」になるという言質をオバマ大統領から引き出すことが最大の目的でした。結果的に、「対象範囲だが、日本を助ける基準になるレッドゾーンはない」とオバマ大統領は発言し、つまり日本は助けないと言ったわけです。これはTPP交渉がその場で妥結しなかったからであり、このときの共同声明も翌日まで先延ばしされました。これは異例であり、首脳会談のあとにさらに続けて翌日までTPP交渉をやって日本が農品目で妥協したら、翌日になってから日米安保の対象範囲だと共同声明に書いてやってもいいと強硬に出てきたからです。

TPPに入らず日本国民1億2000万人の命が軍事的危険にさらされるのと、TPPに入って農協職員が食っていけなくなるのはどちらが大切か。当然政府は日本国民の生命を選んだわけです。

現在のTPPのままではトランプ氏は批准しないでしょう。しかし共和党はもともと自由貿易を民主党より推進してきた政党であり、トランプ氏も米国に有利で日本に不利な協定を作ることには積極的です。だから全く新しい、農協にとってTPPよりも不利な協定を突きつけてきて、「これを呑まないと東シナ海有事で米軍は一切助けない」とTPPと同じ展開になるだけです。

TPPで済めばまだ農協や農家の傷は浅いが、トランプ政権下での協定になると関税撤廃をさらに深掘りされる

私は農協のためを思うなら、一応関税は維持できたTPPで決めてしまったほうが傷は浅いと思います。日本政府もそう考えているのでしょう。かなり農品目の関税を維持しつつ妥結できたと思います。

それは国際協調主義のオバマ氏だからこそ譲歩して認めたことであって、トランプ氏は自国利益を最大化するようにしか行動しませんから、TPPがなくなったところでさらに日本の農協にとって痛手となる協定を突きつけられるだけです。このことになぜ農協は気がついていないのかなと不思議に思います。

「聖域なき関税撤廃を前提とするならば、TPPには参加しない」

これは自民党の2012年衆院選での公約ですが、これをみてJA全中含めた農協グループはなぜか「自民党はTPPに参加しないのか」と判断してしまったようです。実際は聖域があることはこのときすでにわかっており、「聖域なき関税撤廃」なんてものは最初からありえないものでした。それを見誤って自民党を支持し、2012年衆院選で大勝させてしまった農協グループをみて、この人達は情報収集・分析能力がないんだなと思ったものです。

TPPをトランプ氏が破棄したところで、さらに農協にとって不利な協定を作られるだけという事実を認識する必要があります。とはいってもそれを決定するのは米国なので、いくら日本が傷の浅いTPPの方で妥協すると行ったところで今のTPPの農品目関税撤廃水準では米議会は批准しないでしょう。

「TPP?関係ない」は強がり TPP反対署名運動をしていたJA全農と農林中央金庫の職員

JA全農はTPPの煽りを確実に受けるのでTPPに反対して当然です。もちろんJA全中も当初は猛反対していて反TPPの急先鋒として先陣を切っていましたが、今となっては反対して守るべき既得権益すらなくなってしまったのでTPP賛成派に鞍替えしています。

TPPは農業の問題だと多く認知されていますが、「TPPは日本の金融もだめにする」という謎の言論を2年前によく見かけました。実はこれは農林中央金庫の言い分です。

農林中央金庫は金融機関であるため、TPPとは本来無関係です。ですが農協が弱体化すると農林中央金庫も弱体化するのも事実。「TPPが発効しようが農中は関係ない」と強気のホラを吹いている中、実は気にしていて、実際に職員が反対署名運動までやっていたのです。

金融分野というのはすでに海外と同じ土俵で勝負しています。関税や自動車の安全基準のような、日本の金融機関を海外から守るような障壁は何もありません。だから普通の金融機関にはTPPなんて何の関係もなくむしろ追い風です。

いくら「関係ない」と”言葉”で強がっても、TPPに反対しているという”行動”が全てを物語っています。

米国に有利な新しい協定か、TPP再交渉なら審議して批准すると表明した上院共和党

共和党の上院議長は、オバマ政権下でのTPP批准はないと断言しました。ですが2017年1月20日にトランプ政権が発足して以降に、TPPを再交渉するか、全く新しい自由貿易協定を提出されたら審議すると明言しました。つまり今のTPPの内容ではダメだが、米国に有利な内容になるなら上院で審議して批准するということです。今後最低でも4年はトランプ政権が続き、順当に行けば8年は続くでしょう。トランプ氏が主張する保護貿易主義とは、米国に対して輸出しにくくするものであって、米国から他国にモノが売れるぶんにはかまわないわけです。むしろトランプ氏は積極的に他国に売りつけようとしてくるでしょう。

もともと共和党というのは民主党よりも自由貿易推進派です。ねじれが久々に解消して、行政のトップの大統領も、上下両院も共和党になったのは久しぶりです。

日本がチャイナ相手に安全保障で困っていることを米政府は重々承知ですから、米国は足元をみてTPPよりも日本の農業に不利な協定を突きつけてくる蓋然性がかなり高いということです。