安倍政権が配偶者控除廃止で専業主婦よりも女性の活躍にこだわる理由

安倍首相は2012年12月に第二次安倍内閣を発足させてから常に「女性の活躍」を重要政策に位置づけています。

そしてそのために働き方改革をしていますが、税制面でそれを実現するよう働きかけているのが「配偶者控除の廃止」です。

これは働いている旦那と専業主婦の嫁という昭和からの典型的な家庭において、嫁の収入が103万円以下だったら38万円の所得控除が適用されるというものです。つまり課税額が減るわけです。

別にこれは嫁が働いていて、旦那が専業主夫をしているというパターンでももちろん適用されます。

ですが厚生労働省の統計によると、専業主婦:専業主夫の割合は99.9%:0.1%になっており、嫁が専業主婦をやっていて配偶者控除を受けているという家庭のパターンが圧倒的に多いのです。

だから配偶者控除の廃止という政策は、旦那と同じく嫁もバリバリ働いてもらって、専業主婦をやめてもらう方向に税制改革をもって間接的に働きかけるというものです。

間接的にというのが重要で、さすがに専業主婦禁止という法律を作ったら「経済活動の自由」や「人身の自由」に反するので憲法違反の無効法律になってしまいますから、税制の変更をもって専業主婦を減らそうとしているのが「配偶者控除の廃止」です。

マクロ経済学では専業主婦の働きをGDPに加えない

マクロ経済学の講義を受けると真っ先に教えられる部分ですが、GDPには算入される活動と算入されない活動があります。

まずGDPとは何かといったらそれは「1年間に生み出された付加価値の合計」です。単に「付加価値の合計」と覚えておけばいいでしょう。つまり日本のGDPとは日本国内で1年間の間に生み出された「付加価値」の合計額のことです。日本が1年間に生み出した価値の大きさと言えます。

今の日本のGDPはおよそ500兆円です。これはつまり1年間に日本国内では500兆円もの価値が生み出されていることになります。

そしてGDPの主たる要因は「消費」です。

たとえばある企業が清掃会社に頼んで会社を掃除してもらったとします。企業は清掃会社に10万円を支払ったとします。この企業は10万円を「消費」して掃除をしてもらったわけです。そうするとGDPに10万円が加算されます。つまり日本のGDPが10万円だけ増えるわけです。

では次に旦那さんから家を掃除するように頼まれた嫁さんが家を掃除したとします。そして旦那さんはその対価として月10万円のお小遣いを嫁さんに渡しているとします。この10万円はGDPに算入されるかというと、実はされません。

GDPという統計上では、専業主婦の働きがどれだけ大規模なものであったとしても、一切GDPには算入されないことになっているのです。

パートや一般職ではなく総合職として働いてもらうことを目指している

つまり専業主婦として家で働いてもらうより、会社などに勤めて働いてもらったほうがGDPに算入できるわけです。

特に営業などの「お金を直接稼ぎ出す」部署で働いている女性はまさにGDPを増やすことに貢献しています。

例えば営業職をしている女性が1億円の商品を売ってきたとします。もうこの時点でGDPは+1億円です。

営業のような職種をやっているのはたいていどの企業でも総合職です。一般職ではありません。

つまりGDPを増やすことに貢献しているのは総合職としてバリバリ働いている女性なのです。

配偶者控除を廃止すれば総合職として働くのが一番お得になる

現在、もっとも割りを食っているのは旦那が総合職、嫁も総合職という共働きのパターンです。なぜなら二人とも国民年金保険の2号被保険者として国民年金保険料を支払っているからです。

一方で最も得をしているのが旦那が総合職、嫁は専業主婦というパターンです。専業主婦の場合は3号被保険者として国民年金保険料を納付するのを免除されています。それでも65歳になれば同じ額の年金がもらえます。

つまり現状ではバリバリ総合職として働いている女性ほど損し、専業主婦ほど得するのが日本の制度です。

配偶者控除という制度も同じです。総合職として働いていたら103万円は余裕で上回ってしまうからです。つまり総合職として働いている嫁さんは、旦那さんも働いている場合は配偶者控除という恩恵を全く受けることができません。

これを共働き夫婦でも恩恵を受けられるようにしようというのが「配偶者控除の廃止」です。つまり配偶者控除廃止は、共働き夫婦にとってはメリットしかないですが、現状専業主婦をやっている世帯では明らかに不利益なのです。

以前はこのような政策をやったら自民党の支持率急落間違いなしだったでしょう。

ですが実は90年代に既に、共働き世帯の数が専業主婦世帯の数を上回っているのです。つまり専業主婦世帯より共働き夫婦の世帯の方が多数派だということです。しかもそれは年々差が拡大していっており、現在ではかなりの数が共働き夫婦の世帯になっており、専業主婦世帯は少ないものになっています。

だからこそ「配偶者控除の廃止」という昭和という時代だったら間違いなく内閣総辞職ものだった政策がようやくできるようになったわけです。

共働き夫婦のようにバリバリ働けば働くほど得し、働かないほど損する、そういった制度にするために必要なのが「配偶者控除の廃止」だというわけです。

GDPが増えないと軍事予算が増やせない

安倍内閣は2020年頃までにGDPを600兆円まで増やそうとしています。GDPが増えるといろいろ嬉しいことがありますが、日本が今置かれている安全保障環境からしてもGDPを増やすことが切実に望まれています。

軍事予算は正しくは国防費といいますが、実は国防費というのはGDPに対するパーセンテージで決定されています。

例えば日本のGDPが500兆円で、国防費が対GDP比1%なら5兆円です。現在の日本の防衛予算はだいたいこの5兆円です。

一方で米国のGDPが円換算で1500兆円なら、米国は対GDP比率4%の国防費がありますから、計算すると60兆円です。確かに米国は今円換算で60兆円ほどの防衛予算があります。

 

日本が軍事予算を増やす方法は2つあります。

一つ目は先程の1%という防衛費の対GDP比率自体を増やすことです。でもこの1%という比率は昭和の時代から長らく使ってきている数字であり、これを引き上げることは批判が避けられないでしょう。

もう一つの方法がGDP自体を上げてしまうことです。例えば日本のGDPが600兆円になれば、国防費が対GDP比率で1%のままでも防衛予算が6兆円になるので1兆円増やせることになります。

 

2015年の安保法制成立でも分かる通り、日本の軍事力を強化することは安倍首相の悲願の一つです。そのためにはお金が要ります。その防衛予算を増やすためには税収も必要ですが、GDPが増えない分には対GDP比率で決定される防衛予算がそもそも増やせないわけです。

GDPに算入されていない専業主婦の方々が、総合職として企業で働くだけで日本のGDPはかなり増えます。GDPが増えれば日本の防衛力を強化できる。こういった狙いは確実にあるでしょう。

 

ちなみに私は安倍政権が軍事予算を増やすことに賛成です。GDPが伸びることも期待していますし、対GDP比率を現在の1%から最低でも先進国平均の3%、できれば日本の周辺国の平均である4%まで高めることを期待しています。

また女性が総合職として働けるチャンスを拡大することにも賛成です。企業としてはパートや一般職よりも、総合職としてプロフィットセンターとしてお金を稼ぎ出してくれる女性を求めているからです。

男性は総合職、女性は専業主婦か一般職という考え方は昭和的でありもう古い価値観です。男女ともに総合職として結婚しても専業主婦にならずに共働きを続ける、これが安倍政権が目指しているこれからの日本社会の家庭の在り方であり、それを私は完全に支持しています。