フランス大統領候補マリーヌ・ルペン氏は2017年のブラック・スワンになるか

一ヶ月前の2017年初頭までは、フランス大統領選挙で支持率1位の国民戦線マリーヌ・ルペン氏は決選投票には進むものの、決選投票では共和党フランソワ・フィヨンにマリーヌ・ルペン大敗して共和党フィヨン大統領が誕生すると予測されていました。

ですがたった一ヶ月で状況が一変しました。

フランソワ・フィヨン氏にスキャンダルが発生。親族を公費で架空雇用して、親族に給与を受け取らせていたという問題です。

今日本で問題になっている”いわゆる”天下りは、民間企業の資金から給与・退職金がでているので月2日勤務で1000万円でも私から言わせれば何の問題もありません。フランスのフィヨン大統領候補の場合、税や国債という公的資金調達したものを財源に親族が金銭を受け取っていたから問題になっています。

これがフランス国民の猛反発を買っているようでたった一ヶ月にして、「大統領はマリーヌ・ルペンになるんじゃないか」と言われるほどになってきました。

東京電力も安倍首相もEU離脱もトランプ大統領もブラック・スワン

ブラック・スワンとして真っ先に挙げられるのはリーマンショックでしょうが、すでにリーマンショックは風化した感さえあります。

ただリーマンショックのインディケーションは「何が起こるかわからない」ということであり、この教訓を忘れてしまったら過去の経験から何も学んでいないことになります。

まさにヒラリー・クリントン敗北はこのリーマンショックの教訓を既に忘れてしまった人達が陥った罠だと言えるでしょう。「トランプ勝利は100%ありません」と言い切っていた池上彰氏なんてまさにそうでしょう。

リーマンショックだけではなく、東電の原発事故も、安倍首相の再登板も、EU離脱・トランプ勝利もすべてブラック・スワンです。

手堅いインフラ企業から脱落した東電

原発事故が起きた2011年までは東京電力といったら手堅いと言われるインフラ系企業群の中でも手堅いと言われるほどの優良企業でした。

運輸の東海旅客鉄道(JR東海)、電気の東京電力、通信の日本電信電話のように、この3つは東大の理系からしても鉄板中の鉄板と言える手堅いインフラ企業でした。

また土木系の人は日本道路公団が前身であるNEXCOのことを単に「道路」と呼んでおり、彼らにとって「道路」は国土交通省と並んで非常に手堅い就職先となっているようです。

インフラ企業は非常に安泰だがその分給与は低いというのが一般論ですが、この3,4つの企業に関してはインフラ系にしては相当待遇も良い方だと言えます。

その東京電力が2011年に大事故を起こし、経済産業省による公的管理下に入る状態が2017年の現在も続いていて、民間企業たる東電の自由意思が制限されており、資本主義社会の主役とも言える株式会社が経済活動の自由の制約を受けているという異常事態にあります。2011年当時も東電の若手従業員が流出していると言われていましたがそれは現在も続いているようです。

このような事態になることは私が学生の頃から見た東電では絶対に予測できないことでした。だからこそあれだけの東電が今のようになってしまったのはブラック・スワンなわけです。

「2007年で安倍さんはもう終わった」とポジションを張っていた議員が安倍内閣で冷遇されている

また安倍さんの再登板もほとんどの人が予測していないものでした。もう2007年の退陣で「安倍さんは終わった人」ということで自民党内部でも多数の人が離れていったわけです。

そんな中でも当時安倍さんを見捨てず離れていなかったのは現在の菅義偉官房長官や麻生太郎副総理・兼財務大臣、高村正彦副総裁、大島理森衆議院議長です。彼らは人事で厚遇されています。

安倍首相は、当時見限って離れていった人と、その後も残ってくれた人をしっかりと覚えており、離れていった人については二階俊博幹事長を例外として徹底的に人事で冷遇しています。

人事で全く恵まれないから、国の仕事を辞めて、国に比べたらスケールの小さいつまらない仕事しかない地方自治体に下野した小池百合子もその一人です。産経新聞に「Mr.クレーマー」とこき下ろされた石破茂もその一人です。

つまり安倍首相に現在重用されていない人は、「安倍さんはいつか再登板する」という将来を予測する能力がなかったために現在冷遇されており、それは予測能力がなかったことによる自業自得の結果だということです。

安倍首相がすごいのは、誰もが「ヒラリー・クリントン勝利で決まりだろう」と言っていた中で、トランプ陣営とのパイプづくりを大統領選挙期間中も怠らなかったことです。大統領選挙期間中に安倍首相はトランプ氏を一切批判していません。批判してしまったのはキャメロン元首相やドイツのメルケル首相です。キャメロン元首相は既に辞めてしまいましたが、ドイツのメルケル首相とトランプ大統領の間には今でも隙間風が吹いています。

一方で安倍首相は一切トランプ氏を批判しなかったので、トランプ氏当選後にスムーズに関係構築をすることができました。

安倍首相は、ヒラリー・クリントンが勝利するか、ドナルド・トランプが勝利するかを予測しその片方にポジションを張ることを絶対にしません。必ずどちらに転んでも自分に利益のあるようにしておき、どちらが大統領になっても大丈夫なようにしていたわけです。

自民党議員も同じであり、安倍首相が2007年に辞任したときも、「安倍さんはもう終わった」ではなく、「安倍さんは将来再登板するかもしれない」という選択肢を残して安倍さんと関係を維持しておく人が優秀だったということです。それができなかった野田聖子や小池百合子や石破茂は無能としか言いようがありません。

 マリーヌ・ルペン氏は2017年のブラック・スワンになるには少し蓋然性が高すぎる

ブラック・スワンの本質は、可能性はあるけれども、蓋然性はかなり低いといった事前の予測を外してしまうことにあります。

事前に大方の人が予測できないからこそ「ブラック・スワン」になるので、現時点でルペン大統領が有りうるかもとマスコミでさえ予測できている時点で、今の状況はブラック・スワンには程遠いものになっています。

今後2月から3月にかけてマリーヌ・ルペンが少しずつ失速していったら、「やっぱりマリーヌ・ルペンが大統領になるなんてあり得ない」とマスコミが言い出すかもしれません。

そうしたらブラック・スワンになります。大方の予想が「マリーヌ・ルペン当選はあり得ない」になり、いざ決選投票をやってみたらマリーヌ・ルペンが当選するというブラック・スワンがまた一つ生まれる状況があり得るからです。

もしマリーヌ・ルペン氏がフランス大統領になったらトランプ政権にとってこの上ない追い風になります。

マリーヌ・ルペン氏の父親は石原慎太郎と近い主義思想を持っており、日本の靖国神社も参拝している上に日本の対米戦争の正当性を理解している人ですから、安倍首相にとって悪いことはありません。今のオランド大統領と安倍首相の関係も良好ですが、マリーヌ・ルペン氏でも十分友好関係が築けるでしょう。

金融市場関係者がやっておくべきことは、フランス大統領が誰になろうが損をしない状況をつくっておく、これだけです。