2017年8月29日に北朝鮮のミサイルが日本上空を通過した際は、一時的に石川製作所や細谷火工などの軍需株が上がったのみであり、翌営業日には落ち着きを取り戻しました。
米国がこのミサイル発射をサラリと受け流したこともあり、「日本列島をミサイルが横断した程度では戦争は始まらないだろう」と世界各国の市場参加者が見ていたということです。
日経平均株価やTOPIXはすぐに戻り、日本国債購入の流れも後退して10年国債利回りが上昇しました。「有事の国債買い」が後退していたことを意味します。
しかし、2017年9月3日(日)正午に行われた北朝鮮の核実験は未だに大きな影響を及ぼしています。
北朝鮮が水爆実験を行った後の最初の営業日である9月4日月曜日には、石川製作所や細谷火工という中小企業の軍需株が大幅高となりました。また国債買いが進み、利回りは再びマイナスになりました。
そして2営業日目である9月4日火曜日にもその流れは続きました。石川製作所と細谷火工ともにストップ高のまま取引を終えました。これは8月29日のミサイル発射による軍需株上昇が1日も経たずに収束したのと対照的です。
売買代金1位の時価総額5兆円企業、任天堂でさえ売買代金790億円
石川製作所も細谷火工も中小企業です。石川製作所にいたってはここまで株価が上昇してもたった79億円しか時価総額がありません。
三菱重工が1.5兆円企業であることを考えると、いかに石川製作所が中小企業であるかがわかります。
しかし、その石川製作所の2017年9月5日の売買代金は160億円にものぼりました。
時価総額の79億円を上回る売買代金です。これは個人投資家がむらがり、1日の間に回転売買をする日計り商いを繰り返していたことに起因すると言えます。
9月5日(火)に売買代金第一位だった任天堂でさえ、売買代金は790億円でした。任天堂は時価総額5兆円の大企業です。それでも売買代金がたった790億円です。いかに石川製作所の売買代金が大きかったかがわかります。
石川製作所や細谷火工といった企業は時価総額があまりにも小さいため、いわゆる大手金融機関は買いをいれづらいものです。金融機関の規模からするとせいぜい小銭稼ぎくらいしかできないでしょう。
そのため、今回石川製作所や細谷火工に買いを入れているのはほとんどが個人投資家です。個人投資家がそこまで適切な判断をできるとは思わないので、株価にはすべての情報が織り込まれているという「株価万能説」はここでは妥当するか微妙なところがあります。
たった0.9%高にとどまった日本軍需企業の筆頭、三菱重工
日本の軍需企業の筆頭とも言える三菱重工はたった0.9%高に留まりました。多くの日本企業の株価が全面安だった中、0.9%だけでも上昇したのは健闘した方です。
三菱重工が一応の上昇をした理由は、軍需比率がある程度あるからです。しかしそれでも三菱重工全体に占める防衛の比率は3割程度に過ぎません。
つまり、この3割部分が上がったとしても、残りの造船や航空機が円高による景気低迷でしぼんでしまっては三菱重工全体としては大して儲からないわけです。
これは三菱重工にかぎらず、川崎重工、IHI(石川島播磨)などでも同じです。
軍需企業でありかつ大企業の場合、防衛品の比率が小さく他分野をメインにしている場合が多いです。タングステン弾を製造しているダイキン工業も空調企業として知られています。
時価総額があまりにも小さく軍需株ファンドがつくりにくい日本の軍需企業
米国はボーイング、ユーナイティッドテクノロジーズ、ロッキードといった3大軍需企業がありますが、ボーイングにいたっては時価総額14兆円であり、ロッキードでさえ8兆円企業です。
一方で、日本の軍需企業トップである三菱重工がたった1.5兆円です。
これは米国が40兆円近い防衛予算を割いておきながら、日本はたった5兆円であることに起因します。防衛予算の規模に連動しているといってもいいでしょう。
筆頭の三菱重工ですら1.5兆円ぽっきりでは、日本において軍需株に焦点をあてたファンド(投資信託)を作るのは難しいでしょう。
米国においてはブラックロック社がiShares U.S. Aerospace & Defense ETF (ティッカー:ITA)という投資信託を設定しています。日本語ではiシェアーズ米国航空宇宙・防衛ETFです。
残念ながら日本の各リテール証券会社はこういった軍需株ETFを日本人特有の「軍事アレルギー」といった点を考慮して取り扱っていません。
しかも、そもそも日本国内にはこのiシェアーズ防衛ETFのようなETF・投資信託がそもそも存在しません。
日本の軍需株は時価総額が小さすぎるので、投資信託を設定すると数千億円規模で資金が流入する可能性を考慮するとなかなか作れるものではありません。
日経平均株価やTOPIX弱いときには、相対的にミクシィなどの新興企業が強いという法則は戦時には通用しない
2013年~2014年のアベノミクス絶頂期において、もっとも恩恵を享受した株はガンホーやミクシィといった新興IT企業です。ガンホーもミクシィも、ボロ株時代と比較して一時期は100倍近く上昇しています。
2017年上半期において、IT系求人の有効求人倍率が5倍という非常に大きな値を記録していますが、この殆どがミクシィなどの新興企業のIT求人によって支えられています。
しかし、IT企業は戦争などの有事に弱いと言えます。
企業は先行きに悲観的になり出費を抑えるためまずはIT予算を削るので、システムの受注が減ります。
これは野村総合研究所をはじめとする企業に悪影響があり、実際に北朝鮮の核実験後に2営業日連続で下落しています。
ただし、防衛品比率が高いNECはうまく相殺して+0%となっています。
ミクシィはIT企業でもあり娯楽企業とも言えますが、娯楽系企業の株価が下がるのも戦争などの有事の特徴です。TDRを運営するオリエンタルランドは1%下落しており、任天堂にいたっては2%も下落しました。
戦争などの有事においては、IT系企業や娯楽系企業にとっては冬の時代と言えそうです。
また日経平均株価に採用されているような重厚長大な企業が堅調なときはミクシィなどの新興企業が軟調であり、また逆に日経平均株価が芳しくないときはミクシィの株価があがるという拮抗作用がいままではよくみられました。つまり、歴史ある企業と新興企業の間で資金がいったりきたりしていたわけです。
しかし、これは今回の北朝鮮核実験後には崩れました。
日経平均株価もミクシィなどの新興企業も総崩れです。
戦争が近くなると機関投資家の資金は株式市場から退避し国債に向かうからです。
個人投資家の場合はゴールド、または石川製作所や細谷火工に向かうといった構図です。
個人投資家の場合は運用資金が小さいので石川製作所などの小型株に向かいますが、機関投資家はそもそも小型株を買えないわけです。
年金運用で扱うような何十兆円までいかずとも、数千億円程度の資金でさえ石川製作所、細谷火工、豊和工業、東京計器、重松、興研、新日本無線などの軍需企業で運用するのは無理です。とても時価総額が足りなくてさばききれません。
ただ個人投資家の1億円程度の資金であれば、20分割しても500万円です。500万円程度なら時価総額50億円程度の企業に突っ込んでもギリギリprice takerとして振る舞えます。
有事においては、数十兆円を運用する機関投資家よりも、運用資金が小さい個人投資家の方がチャンスかもしれません。
数十兆円も資金があるとどうしても大企業の株をまんべんなく買う必要があり、その場合は必ず戦争による株価下落のあおりをくらいます。ヘッジのために軍需株を買おうとしてもデルタを相殺するだけのポジションが取れません。
その点個人投資家は、日経平均株価の下落を相殺するだけのデルタをもつ軍需株を十分購入できます。
本サイトで何度も記載していますが、第一次世界大戦においても、第二次世界大戦においても戦争成金が多く誕生しました。西武グループの創始者である堤康次郎は、第二次世界大戦時の空襲の被害を受けた都内の土地を格安で買い集めて財を成した人物です。
1955年までに起こった朝鮮戦争では日本の高度経済成長の起爆剤になり大きく日本経済に貢献しました。
その後、60年以上日本経済を活性化させる戦争が起きていませんが、ようやくこれが起ころうとしています。一生に一度あるかどうかのチャンスだと言えます。
別に株を買わなくても日本経済が特需で上向くことは確実なので、都内に核を打ち込まれない限りは日本経済は安泰でしょう。
しかし、個人的利益のことも考えるならば、中小企業の軍需株をまんべんなく買い集めておくことはその後非常に好ましい結果を生んでくれるかもしれません。