米大統領選挙 米大統領は誰になっても同じ

米大統領選挙の話になると皆口をそろえて質問することがあります。

「トランプ候補とクリントン候補どちらが日本にとって有益なんですか?」といったものが多いです。

率直に言ってしまうと、一人の人物のさじ加減次第で国と国同士の問題が大きく変わることはありません。つまり大雑把に言ってしまえば誰でも同じだということです。

「もしオバマ大統領じゃなくてマケイン大統領になってたら大きく変わっていたはずだ。それでも誰が大統領をやっても同じと言えるのか」といった質問もあります。

この質問は大きな誤りを犯しています。

「もしオバマ大統領じゃなかったら」という前提自体がおかしいということです。

多くの人は大統領の考えが違うから政策が違ってきて、世の中に変化がもたらされるという順番で捉えています。

ですがこれは全く逆です。

企業という単位だったら経営者のさじ加減で興廃が決まるかもしれません。

ですが国家というのは人間一人の判断で流れが変わるものではありません。

まず2008~2009年当時、オバマ大統領のように社会保障を重視し、世界の警察から脱却するという人物が大統領になることはすでに確定していました。

米国が世界の警察をやめるということを見透かされたために、世界の各地で情勢が荒れているわけですが、このように世界情勢が混乱するということがまず既定路線であり確定してたということです。

そしてそのような状態を作る人物が大統領に選ばれるという順序です。

もしオバマ大統領が立候補していなかったとしたら、他に世界情勢を混乱させるような人物が大統領になっていました。つまり誰がなるかということは問題ではないのです。

2009年以降の世界全体の流れが先にあり、それにマッチするように人物が自然と選ばれるということです。

だからオバマ大統領じゃなかったらという仮定はまったく意味をもちません。

オバマ大統領以前に誰が大統領をやっていてもリーマン・ショックのような金融の大混乱は不可避でした。そしてそれはリーマン・ブラザーズの破綻が契機である必要はなかったということも重要です。もしかしたら他の金融機関だったかもしれません。たまたま契機がリーマン・ブラザーズの破綻だったというだけで、リーマン・ブラザーズが破綻しなくても別の要因で2008年は世界同時株安になっていたでしょう。

そういったものの見方さえできれば、トランプ大統領になるとどうなるか、クリントン大統領になるとどうなるか、といったものの分析は全く意味をなさないとわかります。

今後の世界情勢やアメリカ行政の舵取りがどうなるかはもうすでに確定しています。それにマッチするような人物が大統領になるということです。

スピーチでどう言えば大統領になれるかといった小手先のテクニックで決まるのはありません。

1964年の大統領選ではゴールドウォーター候補が大失言をして大きな敗因になったと分析されています。その失言のあと、対立候補であるジョンソンが少女のバックで核のカウントダウンを流すCMを作成し、ゴールドウォーター候補を痛烈に批判したのは有名です。

もしその失言をしなかったら、という仮定はまったく意味を持たないのも自明です。

なぜならゴールドウォーター候補が負けることはすでに確定しており、それが失言という形で現れてしまっただけだからです。もしその失言を回避していても別の要因で結局は負けていたでしょう。

この先、トランプ候補やクリントン候補が失言をするかもしれませんししないかもしれません。でもそれはすでに米国の舵取りの方向は決まっており、それに最適な候補が自然と選ばれるというものでしか大統領選はないのです。

よって大統領が誰になったらどういう影響があるかという分析をしていても意味がありません。

今後の世界全体の流れを的確に読む必要があります。

今現在は世界情勢が混乱しているにもかかわらず、米国世論には日米安保が不平等だという意見が表にでてきてしまっています。

さらにオバマ大統領が広島を訪問するという少し前なら想像すらつかなかった事態が次々と起きています。

米国からみたら自分たちの税金を海外に使ってる暇はないという、つまりモンロー主義の再来として米国内に引きこもるかどうかが争点です。

これは日本からみたら日米安保が解消されるかどうか、これが一番の問題点でしょう。

TPPは日米安保とセットなので日米安保を解消されたらTPPも自然と雲散霧消します。日米安保は維持してあげるからTPPに入りなさいというのが米国からの要望だからです。

ですが日本が全部自力で安全保障をしなさいといわれたらTPPに入る必要がないわけです。

つまるところ、日米安保がどうなるかがすべて鍵を握っています。

日米安保というのは軍事同盟ですが、軍事同盟というのは経済同盟でもあります。

日本にはAmazon.co.jpもGoogleJapanもあります。外資の金融機関も銀行・証券・保険問わず多数浸透しています。

重要なのはこのような状態が「当たり前」と思っていけないということです。

Amazon社が進出している国はごくわずかです。日本周辺だと中国にも台湾にもAmazonはありません。欧州でもイギリスやフランスドイツといった一部の国でしかAmazonは展開していないのです。

そんな中でなぜ日本が選ばれているか。それは日米安保という軍事同盟があり、米軍基地が日本にあるからです。米国からみたら自国の軍事基地が相手国にあると地政学的リスクが低いとみなされ、企業の進出のハードルがとても下がります。

逆に敵対している国への企業の進出はとてもハイリスクです。うまくいけば他の人は進出していないわけですからボロ儲けですが、ヘタすると投下資本をすべて失いかけないほどの大損失となります。だからハイリスクということです。

それよりは手堅く堅実に進出できたほうが企業の意思決定はしやすいので、ドイツや日本イギリスといった米国と軍事同盟を維持している国との経済的つながりが密接になります。

つまり日米安保が解消されたら米国企業は日本から引き上げはじめるでしょう。Intelやマイクロソフトの製品などが当たり前のように買えること自体が特別だと理解する必要があります。今まで当たり前のように利用できていた米国製のものやサービスが購入できなくなるということは大きく日本の生活にかかわります。

日米安保が解消されると25兆円の損失になると資産されています。これは日本が防衛予算を増額しなければならないからその分支出が増えるという意味ではありません。

防衛予算関係なく、単に民間の活動だけでも25兆円の損失なのです。これは日米安保が解消されて日本と米国の経済的結びつきが弱くなることによって民間に影響する部分の金額です。

今の日本のGDPが500兆円ほどですから25兆円という金額の大きさは無視できないほど大きいものです。

日米安保を維持してくれるかどうかが米国の今後の舵取りで最も注目する点です。

これさえ維持してくれるなら誰が大統領になっても同じです。トランプ大統領になってもクリントン大統領になっても、日本により自立した防衛体制を迫る、日本に米軍維持のさらなる思いやり予算の増額を求めてくることは確実です。

クリントン大統領は親中派だから日本にとって良くないと言っているひとがいますが、まったく事情を知らない見解としかいえません。

クリントン氏が国務長官だった頃、もうすぐでケリー国務長官に交代するという直前期に安倍総理に対して「力による現状を変更するいかなる一方的な試みにも反対する」という一文を置き土産として置いてクリントン氏は国務長官を辞任しました。オバマ政権はAIIB創設の時期になってからようやく対中脅威論に目覚めましたが、このときはまだ対中強調路線だったのです。そのときにこのクリントン国務長官の発言はオバマ大統領にとって本当に余計な置き土産だったのです。それをあえて残したのがクリントン氏の独断による暴走とも言えます。日本側としてはここまでクリントン氏が踏み込んで言及してくれるとは思っていなかったようです。

クリントン氏が日本に良くないと言っている人たちは、単にビル・クリントン氏の配偶者であるからとか、米民主党政権だからといった単純な理由で説明しています。ですがそのように短絡的なもので判断できるものではありません。

クリントン氏が大統領になっても日本には何の問題もありません。トランプ大統領になっても何の問題もありません。日本が防衛費を増やさなければならない、憲法改正して軍を保有しなければならないのは時代の流れの要請であり、日本で誰が政権を取ろうとも安倍首相が交代しようともこの流れに逆らうことはできないからです。

政治というのは経済の手段です。これは法学入門という名著に書かれている重要な一節です。株式などの金融を含めて、経済を読み解くにはその手段である政治に精通していなくては何もできません。そして国の政治というのは外交・安全保障が国の専権事項なわけですから、この外交と安全保障(軍事)がわかっていないと経済を読み解くのは無理です。

大統領選について論じている人は小手先の一挙手一投足ではなく本質を捉えて欲しいと思います。