AIIBは開発銀行なのに投資銀行である理由

答えから言ってしまいます。AIIBは投資銀行ではないのにInvestment Bankという名称がついた理由は2つあります。

1.中国政府は金融に疎くてInvestment Bankが銀行だと勘違いしていた

2.Investment Bankという言葉は華やかなので格好をつけたかった

たったこれだけです。

まず投資銀行とは何なのかを知らないとこの問題はわからないでしょう。それがわかるといかにAIIBというネーミングが素人的かもわかります。

 

投資銀行とは”investment bank”の直訳です。最初に米国のinvestment bankという概念がありそれを翻訳した言葉のため、投資銀行の意味を理解するにはinvestment bankの意味を理解する必要があります。

investment bankとは、investmentとbankがひとかたまりで一つの言葉になっています

つまりinvestmentとbankをわけて意味を捉えると勘違いになってしまうわけです。

investment bankとは法人業務を専業とする証券会社のことです。

具体的には事業法人の財務活動のアドバイス、債券の発行手続き、引き受け、金融商品の組成、金融商品取引の取次です。

investment bankは預金を持っていることは必須要件ではありません。手数料で稼げればいいので、金融商品を作ってあげたらそのうち5%を手数料を貰うなどのようにすればいいわけです。

そして日本の法律では銀行は債券引受をすることができません。よって日本でinvestment bank = 投資銀行として活動している企業は「証券会社」として金融庁に登録しています。

つまり投資銀行とは証券会社なのです。銀行ではありません。銀行は債券の引き受けなどできない業務が多々あります。それがすべてできるのが証券会社なので、米国のinvestment bankは日本では証券会社として活動しているわけです。

 

投資銀行=銀行という勘違いは日本政策投資銀行のせいで起きてしまったと思っています。

日本政策投資銀行はinvestment bankではありません。つまり投資銀行ではないのです。

日本政策投資銀行は銀行です。証券会社ではありません。

このトリックは、実は日本政策投資銀行は日本政策投資/銀行のように銀行の前にスラッシュが入るのが正しいのです。日本の政策において民間にはできない融資(投資)をする銀行が日本政策投資銀行です。

日本政策投資銀行は以前は日本開発銀行という名称でした。Development Bank of Japanを直訳した名称です。実は現在の日本政策投資銀行も英語名称ではDevelopment Bank of Japanのままです。

ここにInvestment Bankという文字がでてこないのがわかると思います。そのかわりDevelopment Bankとなっています。これが開発銀行のことであり、Development Bankとは発展途上の国や国内の地域にお金を貸して発展させるための銀行です。

日本開発銀行は戦後復興のための銀行としてスタートしました。ですが十分復興したため開発銀行ではなく名称を変えようとなったわけです。そのとき投資にするとかっこいいから、日本政策投資銀行にしようとなったわけです。

ですが業態としては銀行なわけですから、証券会社ではありません。つまり投資銀行ではないのです。Goldman SachsやJP Morganといった会社は「投資銀行」でひとまとまりの言葉ですが、日本政策投資銀行は「投資/銀行」というようにあくまでも銀行であり、業務として投資をしているだけなので投資銀行=証券会社ではないのです。

 

だから日本政策投資銀行とは何か?と米国人に聞かれたら、Development Bankと答えないといけません。Investment Bankだと答えると証券会社だと思われてしまいます。

これはある程度金融業界に詳しい人なら常識なのですが、驚いたことに金融業界にいるのに日本政策投資銀行がInvestment bankだと勘違いしている人をみたことがあります。今逆風を浴びている農協グループの金融機関の人が「投資銀行に行きたい。日本政策投資銀行に行こうかな。」と言っているのを聞いたことがありますが、それは投資銀行ではないという指摘が正しいわけです。

 

そしてこの勘違いは中国政府もやらかしてしまいました。

ADBというアジア開発銀行に対抗してAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立したわけです。

ですがここでも投資銀行という文字が含まれています。AIIBのIBもInvestment Bankです。金融業界の常識からすると、「AIIBは証券会社なのか?」といった話になります。

でも違います。単なる銀行です。AIIBは債券を発行して資金を調達し、それを貸し付けるという典型的な銀行です。証券会社ではまったくないわけです。

ところがDevelopment Bankという名称はすでに米国と日本が率いるアジア開発銀行に取られてしまっている。それより格好いい名前を付けたいという衝動が先にきてしまったのでしょう。

「中国は金融について疎いんです」と自ら暴露してしまうようなInvestment Bankという名称を使ってしまったわけです。漢字名称は日本政策投資銀行のように投資銀行でも良いから、せめて英語名称だけはDevelopment Bankにしておくべきでした。でもそうするとAIDBとなってしまい、既存の日米主導のADBに名前を先に取られてしまっているから仕方なく「インフラ」を追加した後発の名称と受け取られてしまいます。

メンツを重んじるばかり正しくない言葉であるinvestment bankを採用してしまったのでしょう。

このように投資銀行というのは外来語でありinvestment bankで一つの言葉であるということを知っておく必要があります。そしてこれは金融業界では常識です。間違っても日本政策投資銀行は投資銀行だと思わないように。あれは投資/銀行であり単なる開発銀行です。もちろんAIIBも投資銀行ではなく単なる開発銀行です。

これさえ知っていればあなたは中国の金融行政担当者より金融事情に詳しいと言えるでしょう。