野田聖子総務大臣が推進するゆうちょ銀預入限度額撤廃は歓迎できる 農協の大黒柱であるJAバンクにとっては大打撃

野田聖子氏は元郵政大臣でしたが、2017年8月の内閣改造で旧郵政省の所管業務が含まれている総務大臣に任命されました。そういった意味では一貫性はあります。当初は五輪担当大臣だった予定がワガママを言って5大官庁の総務省の国務大臣にしてもらったようですが、一応旧郵政省の経験者なら及第点でしょう。

旧郵政省は総務省の中では傍流であり本来は自治に詳しい人が総務大臣になるべきですが、ゆうちょ銀の預入限度額撤廃論の強硬派であることは素直に歓迎すべき点です。

本来なら2017年までに、預入限度額1300万円から進んで1500万円程度に上限引き上げがなされているはずでした。しかし結局全銀協などの猛反発により1300万円のままになっています。

特に猛烈に反対しているのが農協グループの大黒柱であるJAバンクです。JAバンクに強制出資させて運用をしている農林中央金庫も猛反発しています。

ゆうちょ限度額撤廃に最も反発しているのは農林中央金庫 わざわざ意見書まで公表

農協グループのトップとされていたJA全中は、2015年にJA全中一般社団法人化の農協改正法が国会に提出される直前、連日のように公式ウェブサイトトップに反対声明を出していました。

まさに最後の悪あがきといったところです。

今回も同じことが起こるでしょう。しかし今度はJA全中ではなく農林中央金庫です。

JAバンクの預金に大きく依存している農林中央金庫は以前からしつこく、ゆうちょ銀の預入限度額撤廃に反対してきています。

郵政民営化法施行令の一部を改正する政令(案)に対する意見

JAバンク・JFマリンバンクは、郵政改革について、政府による日本郵政株式会社を通じた株式会社ゆうちょ銀行(以下「ゆうちょ銀行」)株式の保有が続く限り、ゆうちょ銀行と他の民間金融機関の間の競争条件の公平性が確保されず、民業圧迫につながるため、ゆうちょ銀行の完全民営化に向けた具体的な道筋を示すこと、また、完全民営化により競争条件の公平性が確保されるまでは、ゆうちょ銀行の預入限度額の引上げ等を行わないことを要望してまいりました

(中略)

こうした状況の下でゆうちょ銀行の預入限度額を引上げることは、民間金融機関からゆうちょ銀行への資金シフトを生じさせる可能性があります。特に、ゆうちょ銀行との営業基盤の共通性や、地方における人口動態を背景とした預貯金の推移見込みから、資金シフトはJAバンク・JFマリンバンク等の地域金融機関の経営に甚大な影響を与えることが想定され、地域の金融システムの不安定化を通じて地方経済・地域社会に大きなマイナスをもたらすことを通じて、現下の重要課題である「地方創生」を逆行させることが懸念されます。

(中略)

多角的な観点からの十分な期間にわたるモニタリングの結果として、特段の問題が生じないことが確認されるまでは、さらなる預入限度額の引上げは検討されるべきではありません

JAバンク・JFマリンバンクは、前述の懸念が示現することがないよう、政府および郵政民営化委員会の適切な対応を強く要望するとともに、地域社会の維持・発展を支えていくためのゆうちょ銀行と民間金融機関の連携・協調の可能性を含め、わが国の金融市場そして各地域も含めた国民経済の健全な発展に繋がる将来像が実現されることを希望いたします。

出所:農林中央金庫 https://www.nochubank.or.jp/news/news_release/2016/post-358.html

面白いのは、JAバンクが痛手を被る話なのに農林中央金庫が必死にこのような声明を出していることです。

それも当然であり、JAバンクが集めた預金を財源に出資という形で集めて運用しているため、JAバンクの預金残高が減ることは農林中央金庫の運用残高が減ることに直結するからです。

農林中央金庫は「さらなる預入限度額の引上げは検討されるべきではありません」といい切っています。

これは野田聖子総務大臣の考えと真っ向から対立します。ここは野田聖子大臣はひるまずに、強引に押し切って限度額引き上げどころか限度額撤廃まで実現して欲しいと思います。

他に金融機関がなくて仕方なくJAバンクに預けている人も、ゆうちょ銀限度額が撤廃されれば郵便局に資金を移す

郵便局というのはどんなに過疎地でも設置されていることから、ゆうちょ銀行は究極のリテールバンクと言えるでしょう。

そして同じく過疎地に根ざしたリテールバンクとして歩んできた銀行にJAバンクがあります。おそらくど田舎なら郵便局かJAバンクに預けるでしょう。

しかしゆうちょ銀行には預入限度額1300万円という壁があります。JAバンクは都銀や地銀と同じく預入限度額はありません。預金保険制度で保護されるのは1000万円という点は同じですが、何千億円でも預け入れることができるのが普通の銀行です。しかしゆうちょ銀行はそれができません。

数千万、数億、数十億持っているひとからみたらゆうちょ銀行は使いづらいです。それならばJAバンクに預けてしまうと言った人は、三菱銀行のような都銀の支店がない地域では多いと考えられます。

そこでゆうちょ銀行が預入限度額を撤廃したら、「それならJAバンクなんかより郵便局に預ける」といった年寄りが増えるでしょう。そうなるとJAバンクの預金残高は減少し農林中央金庫の運用残高も減少します。

農協グループを支えているのは金融事業 弱体化に直結する

農協は個人農家との仲介手数料で食っている組織です。しかし農薬の販売仲介どころではまったく儲からないに等しいです。

農協グループを支えているのは銀行業・共済業などの金融事業です。これが分離されたら農協は自然廃業が相次ぐことになります。

つまりゆうちょ銀行の預入限度額が撤廃されてJAバンクが弱体化すると農協グループ全体が弱体化することになります。だからこそ野田聖子総務大臣の「ゆうちょ銀行の預入限度額は撤廃する」という強硬意見が歓迎できるわけです。

これから始まる日米FTA交渉でも自動車産業のような第2次産業と、個人農家のような第1次産業の綱引きが始まります。

これらは共存できるものではなく拮抗作用にあります。自動車業界が勝てば個人農家は壊滅します。ただし法人で集約的に農業をやっているところは生き残れます。むしろ法人は日欧EPAや日米FTAやTPPを歓迎しています。

ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃でJAバンクが弱体化すれば、自動車産業にとっても追い風です。自由貿易協定の交渉で足を引っ張る低所得キチガイ集団である農協グループが無力になるからです。

私はゆうちょ銀行のためを思って預入限度額撤廃に賛成しているのではありません。むしろゆうちょ銀行はこれ以上預金を受け入れても、国債利回りがマイナスの中運用手段がなく逆に困っている状況です。ゆうちょ銀行は預入限度額撤廃に賛成していません。

ゆうちょ銀行が預入限度額を撤廃すべきというのは、ゆうちょ銀行のためを思って言っているのではなく、日本の軍需産業に代表される第2次産業振興のためです。つまり日本国全体の利益のためにゆうちょ銀行の預入限度額を撤廃し、農協グループを潰すことが好ましいという

第2次産業というのは利益率が低く、一人あたりGDPを向上させるような分野ではありません。しかし米国トランプ政権は第3次産業のIT企業を冷遇してでも第2次産業を保護する政策をとっています。第2次産業というのは安全保障上極めて重要であり、ここが潰れてしまうと自前で軍事装備を調達できなくなってしまうからです。これは英国のサッチャー元首相のせいで第2次産業が壊滅し、日本で言う三菱重工のような軍需企業筆頭の英国ロールスロイス社の競争力が低下していることからもわかります。

第2次産業が活性化しないと第3次産業の金融業も儲かりません。それを邪魔をしているのは第1次産業の個人農家と、個人農家に寄生している農協グループであるという事実があります。

ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃は農協グループを壊滅させてくれる荒療治の特効薬になるでしょう。