トランプ大統領がTPP復帰表明 日本政府は表向き再交渉を否定しているが最終的に再交渉に応じる構え

トランプ大統領がスイスのダボス会議に先立って、米国CNBCテレビのインタビューでTPP復帰発言をしました。

今までトランプ大統領は再交渉も含めてTPP自体を完全に否定しており、「今後永久的に離脱した。完全に終わらせた。復帰はありえない」としていました。

それが一転し、「再交渉するならTPPに復帰する」と急に態度を変えてきました。自分に利益となるならすぐに判断を変えるあたりがさすが金を稼ぐ分野にいた人物です。

ダボス会議での発言に前もって注目させておくため、事前にテレビのインタビューに応じていたというのが正しい見方です。突発的に出た発言ではなく、前もって周到に準備しておいた発言です。

TPP11が妥結しただけでも嫌がっていた農協グループ。さらに米国がTPP復帰に前のめりになってきたことで農協グループはお通夜状態です。

農協の機関紙である日本農業新聞は、2017年1月20日トランプ政権が発足した直後に「TPP離脱」を宣言したときでも、「トランプが離脱表明してもまだ消えないTPPという亡霊」と記事を掲載していました。

全く実際にその通りになっているのが笑えます。全く予測能力がない農協グループでも、悪いことについては的確に察知しているようです。

農協はTPPのことを「魑魅魍魎」とも表現したことがあります。「亡霊」や「魑魅魍魎」なんて言葉がでてくる時点で、相当TPPを嫌がっていることがわかるでしょう。

日本政府の「再交渉しない」は嘘 最終的には再交渉に応じる

河野太郎外務大臣は、トランプ大統領の「TPP再交渉で米国に有利になるならTPP復帰」という発言について、「TPPの中身は既に確定している。変更しない」と言い切りましたが、これは既に交渉が始まってるから強気にでなければならない要請で出てきた発言です。

TPP交渉でもそうでしたが、日本の言い分が100%通ることはないし、米国の言い分が100%通ることもありません。

米国側は日程を無理に延長したりなどあの手この手で要求を押し通そうとしましたが、甘利元大臣が帰国する前日になってようやく米国は矛を収めました。

最初に強気に出ておくのは交渉の常識です。

もしここで今回日本政府が「米国がTPPに復帰するなら再交渉してもいい」なんて発言したら、そこが交渉の基準点になりそこからさらに米国側に押し込まれることになります。

米国トランプ政権が2017年初頭にTPP離脱を宣言した際、産経新聞は日本政府高官の発言として「米国が復帰するなら再交渉も選択肢の一つ」と日本政府は考えていると報じていました。

つまりはそういうことです。日本政府の本音としては米国がTPPに復帰するなら再交渉なんてやってもいいと思ってますが、それを今の段階から言ってしまったら甘く見られるため言っていないだけです。

TPPとは対シナとしてのブロック経済です。経済事情以上に安全保障という軍事目的でTPP交渉をした意味合いが強いです。

TPPは米国にとってというより、むしろ日本にとって切実な問題です。米国は別にTPPに入らずとも自活できますが、日本はそうもいきません。日本政府は最終的に農品目関税を撤廃してでも米国のTPP復帰にこだわり続けます。その日本の安全保障上の弱みを米国は知っているので、米国は強気に出てくるでしょう。

医薬品の知財保護期間は他国もからむためトランプ大統領はこだわってこない

米国が不満を持っているTPP条項の一つとしては、医薬品の知的財産保護期間が短縮されたということです。医薬品メーカーを抱えているのは米国も日本も同じですが、TPP域内のほとんどの国はこの知的財産保護期間の短縮派です。

つまりこの知的財産保護期間を長くするようTPPの協定を変更するとなると、ほとんどの国を敵にまわすことになります。これはNAFTA交渉などでの四面楚歌状態から立て直そうとしている今のトランプ政権が採れる選択肢ではありません。

自動車の農品目 事実上日米FTA交渉になる

甘利とフロマンのTPP交渉をみてきた人ならわかると思いますが、TPP交渉とは実質的に日米経済戦争でした。米国は日本にコメを含めた農品目関税撤廃を要求し、日本は米国に自動車関税の撤廃を要求します。他のTPP交渉国からしたら「日米が妥結しない限り俺達の国の出番はない」として静観していました。

今回のTPP再交渉も主役は日米です。

トランプ大統領が製造業の衰退で荒廃した街を重視していることからも、日本からの自動車輸入関税は絶対に譲れない一線です。

トランプ政権の言い分は簡単で「日本は農品目関税を撤廃して、我々に自動車関税を認めるべきだ。それを日本がのむのなら我々はTPPに復帰する」というものです。

当然日本政府は拒否するでしょうが、そうするとトランプ政権は「我々はTPPに復帰すると言っているのに、日本がゴネているから前に進まない。TPPを停滞させているのは日本だ」ということになります。

つまりトランプ政権としては、焦点を自動車と農品目に絞り込むことで、次の選挙で有利になれます。

「日本からの自動車輸入を阻止するために関税を引き上げた」「日本に農品目を売りつけるために関税を引き下げ、さらに大きい輸入枠を認めさせた」と成果をひっさげれば選挙でも戦いやすくなります。

しかも自動車関税や農品目関税は日米の問題であり、他のTPP加盟国には関係ありません。

そうなるとトランプ大統領は日本以外のTPP加盟国を味方につけることができ、「日本が農品目関税を撤廃しないから米国はTPPに加盟できない。米国がTPPに入れないのは日本のせいだ」と吹聴できます。

他のTPP加盟国に「TPPに一番参加してほしい国どこか」と訊けば「米国」と答えます。当然です。米国はGDPが高いだけでなくGDPの内訳のうち「消費」の比率が極めて高い国です。「消費」が多いということは米国の需要を取り込めば輸出増が期待できることになります。これは米国に限らず、過去は英国のように基軸通貨発行国は自然と消費が多くなるので、基軸通貨発行国と同じ経済圏に属せばメリットは大きいです。

米国自身も自国のTPP内での存在価値を理解しているので、「日本が米国の言い分を認めたらTPPに入ってやる」と他のTPP加盟国を味方に付けてきます。

こうなると日本政府の対応としては、「米国の自動車関税の引き上げを認める」or「米国の自動車関税の引き下げ期間を超長期にする」、「農品目関税を引き下げる」or「農品目の輸入枠を引き上げる」という条件をのまざるを得なくなります。

これは事実上日米FTA交渉をTPP内部でやるようなものです。たとえTPP再交渉が失敗しても米国は同じことを日米FTAで突きつけてきますし、TPP再交渉で満足のいく結果となれば日米FTAは求めてこないでしょう。

どちらにしろ「ボールは日本にある」ということです。米国がTPPに復帰するためには、どれだけ日本の農協グループを不幸にできるかどうかにかかっているとも言えます。